ほんの一分違ひで決めて来た汽車

「五月頃になつて此方には帰らうかね。」 ほんの一分違ひで決めて来た汽車に乗り遅れたので、吾々は停車場で二時間ほども待たなければならなかつた。 これで行くと家に着くのは夜中の十二時頃にもなるだらうから、出直さうか、明日に? そして今晩は街の方へ見物に行つて見ようか? と、妻を顧みて相談をかけると彼女は、神経的に首を振つた。拒んだのだ。「今日、行き損ふと大変よ。」「だけど、明日だつて……」 汽車に乗るのは殆ど半年振りだつた。乗つたと云つても、この前もやつぱりヲダハラまでゝある。東京から。 何も厭なわけはないのだが、あの△△線を曲らずに真つ直ぐ急行列車で通り過ぎたら、どうだらう? 降りたくなるだらうか?「それあ降りたくなるだらう。」と思つた。思想的にもそんな感傷に病らはされてゐる気もする。「飯を食ふには時間が足りないやうな気もするし……」「二時間もあるのに!」「いや、何だか厭なやうな……」「ぢやあ二時間も斯うやつて立つてゐるの?」「だから、よう……」「帰つてからも飲むつもりなの?」妻は酒のことを云つた。一寸と不安な眼つきで。「どうしてそんな風に、直ぐにそんなことを訊くのかなあ!」「…………」

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