ほんの一分違ひで決めて来た汽車

「五月頃になつて此方には帰らうかね。」 ほんの一分違ひで決めて来た汽車に乗り遅れたので、吾々は停車場で二時間ほども待たなければならなかつた。 これで行くと家に着くのは夜中の十二時頃にもなるだらうから、出直さうか、明日に? そして今晩は街の方へ見物に行つて見ようか? と、妻を顧みて相談をかけると彼...

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前日中に脱稿してしまはうと思つてゐた

 三月六日 前日中に脱稿してしまはうと思つてゐた筈の小説が、おそらく五分の一もまとまつてはゐなかつた。それも、夥しく不安なものだつた。ひとりの人間が、考へたことを紙に誌して、それを読み返した時に自ら嘘のやうな気がする――それは、どちらかの心が不純なのかしら? この頃の自分は、書き度いことは全く持つ...

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ばったの群《む》れ

「あれですか、ばったの群《む》れが、どこかへ移《うつ》ってゆくのです。」と、花《はな》は答《こた》えました。 どこかに、もっといい土地《とち》があるのであろうと、女《め》ちょうは考《かんが》えていました。 その晩《ばん》の月《つき》は、明《あか》るかったのです。そして、地虫《じむし》は、さながら...

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