自分は絶望的な嘆息を洩した

「あ……」と、自分は絶望的な嘆息を洩した。――自分の手は棒になつて動かなかつた。自分は、明るい電灯に曝されてゐる骨張つた手を視詰めた。指先を憎体な熊手のやうに曲げて凝つと、指先きばかりを視詰めた。頭は一つの魯鈍な塊りに過ぎなかつた。――間もなく自分の腕は、渡辺の綱に切り落された間抜けな妖婆の薪のやう...

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節句の朝

 前の日に片づけたのだと母が云つた雛の箱が床の間に載せてあつた。自分には女のきようだいがないので、これは祖母と母の昔の雛ばかりなのだが、そんなものが好く残つてゐたものだ。自分は、それに惑かれやうとしない心を無理に結ばうと試みた。 在るお雛様を飾らないと、節句の朝にお雛様は自らツヾラの蓋をあけ、行列...

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父のあしたの法要

 自分は、近いうちに静岡を訪れようと思つてゐることなどを話した。静岡には、老妓のお蝶がゐる。勿論お蝶には手紙も行つてはゐないだらうが、父のあしたの法要には出かけて来るだらう――さう思つたので自分は、さつき散歩に出かけた時お園の楼を訪れて彼女の消息を訊ねたのである。 誰と話をしても面白くなかつた。そ...

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